2011-01-01から1年間の記事一覧

正しい、というのは、そちらの方が強い、という意味に限りなく近い

漫画に出てくるヒーローは、マスクを被って正体を隠し、正義を振りかざして悪を排除する。そうして、自分の正当性を若い世代にアピールする。 若者は、その正義にではなく、力に憧れる。

個人的な会話をできるようになったかと思うと、いっそう魅力的に見えます

そう言われて彼女が浮かべた笑みは、相手が自分に好意を抱いていると知っているからこそ、おそらく品がなかった。

(その八十九) アンドレ・ザ・ジャイアント

ときに神話はその古めかしい外皮を破り、瑞々しいユーモアをたたえて現実に姿をあらわすことがある。伝説がさまざまな尾ひれをつけたために、ひとりの大男はきこりの姿に身をまとい、フランスのカンタブリカ山中で孤独に斧を振りまわす。大木が倒れるたびに…

21世紀音頭

花咲くつつじもハーフの時代 21世紀ですもの。

(その八十八) ブルーザー・ブロディ

ブルーザー・ブロディが「キングコング」の異名をとるようになったのは、WWWFに参戦していた頃に撮られた一枚の写真がきっかけだった。それは、スタン・ハンセンやホセ・ゴンザレスらとともにアメリカ東部を巡業中に撮った写真で、ポーズを決めるブロデ…

(その八十七) アンドレ・ブルトン

同じ「ミノトール」編集室で、私はアンドレ・ブルトンとも知り合った。彼はもう、シュルレアリスム運動の英雄時代のように、方眼鏡や緑色の眼鏡をかけたりしてはいなかったが、それでも私は一目でブルトンだとわかった。整った顔立ちで、鼻はまっすぐに通り…

as...

彼にとって彼女の現実は空想の模倣であり、それ故に彼女の生には意味を感じとることが難しかった。 彼女にとって彼の現実は物語のようであり、それ故に彼の生には特別な意味を感じることができた。

くつしたの穴

冷蔵庫でエッグタルトが形作る流線型は、その丸さ故に孤独だった。始発待ちの野郎どもが向かいのホームからしかめっつらを向けてくる。負けじとしかめっつらを返してみたものの、−と−が生み出すような化学反応たれたかどうか難しいところである。

動物たちは行動の鏡

優しさには鼻をこすりつけ、残酷さからは遠ざかる

北の国から来たんだ

北の人間は誰も踊らない。誰も踊り方を知らない。誰も踊りなんてものがあることじたいを知らない。でもあたしは踊りたかった。足を踏み、手をまわし、首を振り、ぐるりとまわりたかった。こんな風にね。

(その八十六)辰巳カリギュラ

辰巳カリギュラは、遊び人を自称する人がおうおうにしてそうであるように、とても几帳面だった。手ぶら、開襟、にやにや笑いに遊び人の特質を認める人は、本質を見誤っている。遊びは持ちうるすべてのエネルギーを消費するものであり、効率的に蕩尽しなけれ…

(その八十五)Tる丘

Tる丘のことで思い出すのは、いっさいのものに先立って存在するあの瞳だった。見上げることも見下ろすこともなく、ただ水平に物事を見通す瞳。Tる丘が顔を反らす。すると、秀でたほお骨に乗ったあのふたつの瞳が相手を貫き、後方の壁に突き刺さる。当の相…

ぷーらんく

内心、照り付ける太陽と蝉の泣き声が恋時雨な私は、岐阜の山奥にて過ごしたし 世界を変えるのが認識であれば、言葉もまた力になる。

三羽揃えば

ちゅちゅんがちろる 僕のアイツは行方が知れぬ 三千世界の露となりけり

Musicは最高だ〓

個人的には記念すべき日です〓現状では申し訳ないことにお二人の話される言語を理解すること能わず。。。されども欲されることを想像するにつけ、欲求エネルギーの力強さに生命の神秘と世界への信頼が感じられました。この信頼がどのように着地していくのか…

(その八十四)Q

ビールの宣伝広告のようだ——もっとも慧眼な友人は、彼女のことをそう呼んだ。私は即座に同意した。少なからざる男たちは、すれ違う彼女の後ろ姿を眼で追ったに違いない。彼女は美人だったからだ。シャギーの入った肩までのストレートヘアーに、姿勢のいい反…

宙吊りの悪夢 タル・ベーラ『サタンタンゴ』(1991−1993)

泥の平面の向こうに浮かんだ白壁の建物を正面から捉えたロングショットに不可解なものはなにひとつ存在しない。建物とカメラのあいだの二〇メートルほどの距離は、これから起こる事態をなんらさえぎることなく存在し、漆喰の白さと扉や窓の黒さを単調に際立…

(その二十九) バス移動

新宿駅西口を午前九時に出発したバスは、関越道を降りてからずっと、同じような景色の続く国道をひた走っている。僕はバスの中を見回した。三十人ほどの若者が、それぞれ窓際の席に陣取り、眠ったり、ヘッドフォンステレオを聴いたりしている。友達同士で参…

(その二十八) 出会い

「ちょっと裸になれ」と、力道山が言った。それが彼の最初の言葉だった。 アントニオ猪木『男の帝王学』ワニブックス 一九九〇年六月一日 103頁 十三歳でブラジルに渡った頃の猪木寛至は、すでに身長が一八五センチを越え、学校の体育教師を投げ飛ばすほどの…

(その二十七)清潔

藤田嗣治は、シャイム・スーティンに歯ブラシを与え、その使いかたを教えた。それがなんのためになるのかをスーティンが理解しようと思ったのは、藤田のとなりで喉もとにこみ上げる嗚咽をがらがらうがいで流し去ったときではなく、つるつるの歯で行きつけの…

(その八十三) ボゾ

翌朝、われわれはもう一度パディの友達を探しにかかった。ボゾと言って、大道絵師、すなわち道路の上で絵を描く男である。パディの世界には住所などは存在しなかったけれども、ボゾはランベスで見つかるのではないかとは漠然とわかっていて、結局エンバンク…

(その八十二) パディ

パディはそれから約二週間、わたしの相棒になった。そして彼こそとにかく親しくなったと言える最初の浮浪者だから、彼のことについて書いておきたい。彼は典型的な浮浪者だし、英国にはその仲間が何万といるはずだからである。 パディはわりあい背の高い、三…

(その八十一) アンリ

下水道で働いているアンリもいた。背の高い、縮れ毛の陰気な男で、下水工夫用のブーツを履いているとなかなかロマンティックな男前だった。変わっているのは仕事のこと以外口をきかないということで、文字通り幾日でも口をきかなかった。彼はわずか一年前ま…

(その八十) ルージエ夫婦

変わり者もいた。パリのスラムは変わり者の巣窟である――孤独で狂った同然の人生に落ちた結果、ふつうのまともな人間になることをあきらめてしまった連中だ。金が労働から解放してくれるように、貧乏は人間を常識的な行動基準から解放してくれる。このホテル…

(その七十九) 清水N

彼女は、地方のある飲食店に勤めているあいだに体重が二十キロ増えたが、性的な魅力はいっこうに衰えていないと自負していた。 経験が彼女にこう語った。女の魅力の大部分は、まだ女の価値を知らない男によって作られる。知ったと思う男は、かえってそれを魅…

(その七十八) Y

Yは私の知り合いのなかでもひどく風変わりな男で、数ヶ月単位で取り組む研究テーマを変えては路上を徘徊していた。問題の探求にあたって、実証的なアプローチを図書館に籠もる学者の占有物にしてはいけないというのがモットーのYは、もっぱら読書や観察を…

(その二十六) 追放

ある午後、朝から折り悪しく振り(ママ)つづいていた雨のなかを、半白の髪をした長身の男がたずねてきた。着ずれたカーキ色の服からして、その男の日常は楽でないことを示したが、フジタは別として、それが当時の日本人の標準的な服装だったことは確かであ…

(その二十五) 分身

「首尾はよくなかったよ!」と、バティストはアナゴを指して言った。 彼は、釣り人が波止場にじっと立っている野次馬にでも話しかけるような口振りで、ロンドンから来た男に話しかける。 つぎは、ロンドンから来た男がバティストに話しかける番か? 男が長い…

(その一) 白樺派の時代

『白樺』の標榜する人道主義は安易な虚言でしかなかったが、それは局外者の冷静な観察によってもたらされた意見である。素朴な宗教的感情のように、理想は実現の可能性を本気で信じたときだけその深淵の口をぱっくりと開けた。自己主張を敬虔と熱狂という宗…

ヤクザ研究ノート(2)

ヤクザ組員と警察との戦後占領下における蜜月期から現在まで連綿と続いた司法取引の実態は、ほとんど公表されることもないまま「証拠物件」の捏造と余罪追求の取り下げをくり返してきたが、取引を持ちかけられた組員が暴露するほかにも、あまりに慣例に浸り…