2012-03-01から1ヶ月間の記事一覧

(その九十二) ジョン・エドガー・フーバー

アイゼンハワー時代を通じて、私たちは平穏無事にFBIトップの地位をまっとうし、足りぬものは何もないという満ち足りた気分を満喫していた。だが、だからといって、自らの心の奥底に根ざす大きな苦悩からエドガーが少しでも解放されたかというと、そうで…

(その七十) 藤田嗣治(2)

学校で絵を描いていたら誰かが、面白いぞ、と大声をあげながら教室へ入ってきた。今なア、美術館に行って、お賽銭箱に十銭投げるとフジタツグジがお辞儀するぞ。本当だった。隣の美術館でやっている戦争美術展にさっそく行ってみたら、アッツ島玉砕の大画面…

ジェリー・ルイス 適応の問題

スラップスティックの伝統にもたらされた革新のひとつは、「適応」という身振りをめぐって観察することができる。「適応」は社会の掟であり、強制されながらもしだいに流暢に、掟の手前で人は果てるところを知らずに問い続けなければいけない。「適応」が単…

(その九十一) 森繁久彌

意地悪なところはあるし、偏屈のふりはしてみせるし、最初はあまり好きになれなかったとか、台本にせよ脚本にせよ、〈台〉や〈脚〉なんだからと言ってどんどん自分で直してしまうのが不遜に思えたとか、森繁さんについてはこっちが素直になれるまで、ずいぶ…

(その九十) あるところで思考が停止してしまう人達

道路公団民主化の推進委員会が、最終答申を出す前に大揉めに揉めて、委員長の今井某が委員長を辞めちゃった。「七人の侍」と言われてたのが、五対二で割れて、「七人の侍の中に野武士が入ってる」とまで言われる。「感情のもつれ」というところまで行っちま…

湯屋にて

私は最近いくらか抜けている。『浮世床』を読んでは寒気に震え、部屋に閉じこもっても近隣の建て直しの工事音が耳について離れない。たまりかねて、私は銭湯の暖簾をくぐった。 服を脱いで引き戸を開けると、視界が曇ったので初めて眼鏡をかけたままなのに気…