2011-02-01から1ヶ月間の記事一覧

ロスキノフ教授の夕べ〓

ロスキノフ教授の夕食はいつも遅く22時を過ぎるのが常である。 今夜は鰤の塩焼きとひじきの煮付けであった。どちらもロスキノフ教授の好物である。ちあいを避けながら食べすすみ、煮付けの中に埋もれている椎茸のかけらを見つけては除ける。 そんなロスキノ…

喫茶店にて

「くじらのめだか」がその男の口癖だった。本人の弁のしからしむるところによると、こっぴどく上司に叱られてしょげ返っている同僚を慰めにいったところ、デスクに座る同僚の背中越しに、真っ黒く塗りつぶされたメモ帳が見えた。その黒は一定の速度で円を描…

(その三十五) ヴィラード・ヴァン・オーマン・クワイン

伝承。あるピアニストがモーツアルトの楽曲を弾きおえたあと、鍵盤を打ち間違えたことをわびた。演奏を聴いていた論理学者のヴィラード・ヴァン・オーマン・クワインは、奏者の肩に手を置いて慰めた。「気にすることはないさ、君は別の曲を完璧に演奏しただ…

(その三十四) 佐伯祐三(1)

佐伯にとってますます重要になってくるもの、彼の創作意欲をたえず掻きたてようとする根源には、ヴラマンクの放った怒号がまるで理解できなかったという、動かしがたい事実があった。佐伯にとって重要なのは、理解ができなかったというその一事にのみかかっ…