ジョージ・オーウェル 『1984年』

君はきれいな模様のなかの疵なのだよ、ウィンストン。拭い去らなくてはならない汚点なのだ。今しがた言ったばかりだろう、われわれは先人たちの轍は踏まないと。不承々々の服従には満足しないし、ひたすら平身低頭してこちらの言いなりになる態度にも満足しない。最終的にわれわれに屈服するときには、本人の自由意志から出たものでなければならないのだ。異端者を駆除するのは、われわれに抵抗するからではない。抵抗している限りわれわれは駆除したりはしない。われわれは異端者を改心させる、その内なる心を占領する、人間性を作り直すのだ。その人間に宿っていたあらゆる悪とあらゆる妄想を燃やしつくして消してしまう。その人間が仲間になるように仕向けるのだ。見せかけではなく、衷心から、全身全霊で仲間になるように。
<中略>
君がかつて無罪だと信じ込んだあの惨めな反逆者三人組にしても−−ジョーンズ、エアロンソン、ラザフォードだったな−−最後には、われわれに屈服した。かれらの尋問にはわたしも加わって、この目で見たのだ。かれらは次第に参っていって、哀れっぽい声を出すようになり、這いつくばって、涙を流した。そして結局そうなったのは苦痛のせいでも恐怖のせいでもない。ひたすら悔悟の念からそうなったのだ。尋問が終わったときには、かれらは人間の抜け殻になっていた。自分たちがやったことへの後悔と<ビッグ・ブラザー>への愛以外には何も残っていないのだ。その愛の深さを目の当たりにするのは感動的だったよ。心が汚れないうちに死ねるように、すぐに射殺してくれと、かれらの方から懇願したほどだ。