2011-03-20から1日間の記事一覧

不在の演出家 北野武『アウトレイジ』(2010)  

長らくフェリーニ病を患っていたという北野武監督が、十年の歳月を経てヤクザ映画に復帰する。おそらくこの見出しは、現時点での最新作である『アウトレイジ』(2010)の紹介としては、いささか不十分であることは否めないだろう。最初に説明しておくと…

(その十四) 共有

電車に乗り座席について、ふと見上げると、眉毛を抜いている男がいた。長髪で、ヴィトンの手提げかばんを太ももの脇に置き、一心に鏡を見つめていた。電車のゆれで立てかけたかばんが倒れると、ふさがった手を伸ばすに伸ばせず膝を硬くすり合わせた。鏡の自…

(その十三)  いたわり

商店街でみかけた親子。母親は、右の足を怪我していて、包帯を巻いた片方だけがサンダル履きだった。彼女は疲弊しており、背中を丸め、ふたつの松葉杖をよろよろつきながら、あごを突き出し息をついた。その左側にいる十二、三歳の息子は、いたわるようにぴ…

(その五十三) ユーラ・ヴァーナー

彼は忙しくても平気だったんだ。だって、満足し、幸福だったからな。彼にはもうなに一つ心配ごとはなかったから。ユーラはもうだれの手にも届かないところへいってしまったんで、マッキャロンとかド・スペインとかいう名前の別の男がまた現われるかも知れな…

(その五十二) 宮沢喜一

ウチの総理大臣もすごいやね。 「アレでしょ、ニューハンプシャーってとこは景気の落ち込みがひどいわけだし、ブキャナンて人だってムニャムニャムニャ」って、アメリカの大統領の予備選挙の正確な論評しちゃうんだから。日本の総理大臣てーのは、伝統的に「…

カフカの日記の断片

カフカがある比喩を書き綴り、一行ぶん空けた次の段落でこの比喩はうまくない、ぜんぜんうまくないと結論づけるとき、それでもカフカはひとつの表現全体を検討するために、最後の一語まで書き終える。カフカは、女の一部を見て、もしくは、ほくろを見て、み…