(その十三)  いたわり

 商店街でみかけた親子。母親は、右の足を怪我していて、包帯を巻いた片方だけがサンダル履きだった。彼女は疲弊しており、背中を丸め、ふたつの松葉杖をよろよろつきながら、あごを突き出し息をついた。その左側にいる十二、三歳の息子は、いたわるようにぴったりと肩を寄せて歩いていたが、彼が十分に保護するには彼の側にある松葉杖が邪魔で、ついには母親から奪い取ってしまった。息子もまた見よう見真似で松葉杖を左の脇にはさみ、母親とまったく同じ速度で歩き出した。すると、ふだんは猫背の身長がぴんと張りつめ、母の頭にはわずかに及ばなかったが、幼い肩はほとんど同じ高さにまでなった。この健康者の息子は、杖が招き寄せた思わぬ効果に気をよくしたのか、杖を取られてより困難な歩行を余儀なくされた母親を支えてやろうと右の腕を母親の腰に伸ばしたが、勢いあまって肩を抱き寄せてしまった。おりしもふたりの歩みは商店街の坂道にさしかかっていたので、新たに加わった重みで母はより痛々しく、足を引きずりながら歩いたが、幼い息子がウインドブレーカーに包まれた腕で、恋人のようにしっかりと母をくるんでいた。