2010-08-17から1日間の記事一覧

(その二十四) シャルル・ボヴァリー

シャルルの話は歩道のように平凡で、月並みな考えがふだん着のままそこを行列して行った。なんの感動もあたえず、笑いも夢もさそわなかった。彼のいうところでは、ルアンにいたときもパリの役者を見に劇場へ行きたいなどという気はまるで起こらなかったそう…

(その二十三) チャールズ・スペンサー・チャップリン

チャールズ・チャップリンがはじめてカメラのまえに立ったのは、一九一四年一月五日、『成功争い』であった。この映画は喜劇俳優で製作者をも兼ねていたヘンリー・パテ・レールマンによって演出された。そのむかしバスの運転手をしていたこのオーストリア移…

(その二十二) トマーシュ

「私」というものの唯一性は、人間にある思いがけなさの中にこそかくれているものである。すべての人に同じで、共通のものだけをわれわれは想像できる。個人的な「私」とは一般的なものと違うもの、すなわち、前もって推測したり計算したりできないもの、ベ…

(その二十一) グスターヴ

彼女は、みんなから彼の性格のもっともきわだった主要な特徴だと思われていた、ほとんどありえないほどの親切さに眩惑された。彼はその親切さで女たちを魅了したのだが、女たちのほうはその親切さが誘惑の武器というよりも、むしろ防御の武器だと理解するの…

(その八)眼

自分の車をローリンソンの家の隣に停め、こわれた踏み段につまずきながら、不安な気持でヴェランダに上がった。 ミセズ・シェパードがドアをあけ、唇に指をあてた。目が非常に不安そうであった。 「一分ほど、お話をしたいのだが?」 「今はだめです。忙しい…