(その二十一) グスターヴ

 彼女は、みんなから彼の性格のもっともきわだった主要な特徴だと思われていた、ほとんどありえないほどの親切さに眩惑された。彼はその親切さで女たちを魅了したのだが、女たちのほうはその親切さが誘惑の武器というよりも、むしろ防御の武器だと理解するのが遅すぎるのだった。母親に溺愛されて育った彼は、女たちの世話なしに、ひとりで生活することができなかった。しかし、それだけよけいに、女たちのいろんな要求、諍い、さらにはあまりにも存在感があって圧倒的な肉体にさえ耐えられなかった。そこで彼は、女たちを引きとめつつも女たちから逃げるために、親切さという砲弾を撃ち、その爆発の雲のかげに隠れて退却していたのである。
      ミラン・クンデラ『無知』西永良成訳 集英社34頁