2010-08-16から1日間の記事一覧

(その二十)  テオドール・ファン・ゴッホ

このころ、テオは、フィンセントにはできなかったやり方でフランスの美術界に地歩を築くようになっていた。画家の生活につきまとう困難を自分の目で見ていたテオにとって、兄の単純さは驚くばかりだった。工房と有名な画家、美術学校とサロンの複雑な相互関…

(その十九) グルーチョ・マルクス

グルーチョは人種、皮膚の色、信仰、小切手帳のいかんにかかわらず、すべての人間を平等に騙そうとする真の民主主義者だ。 ポール・D・ジンマーマン『マルクス兄弟のおかしな世界』中原弓彦・永井淳訳 晶文社29頁

(その十八)  横山やすし

破滅型というマスコミ用語がある。 ぼくが少年のころは、太宰治や坂口安吾がそう呼ばれていた。太宰治はそうかもしれないが、坂口安吾はどうなのだろうか? 近頃は色川武大をそう呼ぶ人がいるが、あまりにも大ざっぱ過ぎはしないか。 つまりは、健全な一般市…

(その十七)  ソープヘッド・チャーチ

むかし、物が好きな一人の老人がいた。こういう癖がついたのは、ごく些細なことであっても人間と接触するようなことがあれば、かすかながらしつこい嘔吐感に悩まされるからだった。いつからこの嫌悪感が始まったのか彼は思い出すことはできず、また、嫌悪感…

(その七) 微笑

彼女は煙草の煙を吐いて、その煙の中で微笑した。美しい歯だった。 「けさ、私が来るとは思わなかったでしょうね。頭はどう?」 「まだ、はっきりしない。全然予期してなかった」 「警察でしぼられた?」 「例のとおりさ」 「私、お邪魔じゃないの?」 「い…

(その十六) 救い主

救い主 信じられない光景だ! おいで、私の車に乗って、こんな所から立ち去ろう。 救われた娘 その考え、あなたの頭の中で固定観念になってるのかしら? アゴタ・クリストフ『伝染病』堀茂樹訳 早川書房162頁

(その十五) ヨアンネス・クリソストムス・ヴォルフガングス・テオフィールス・モーツァルト

ある日のこと、彼は深い夢想に耽っていたが、ふと一台の馬車が門口にとまるのを耳にした。見知らぬ人が彼に面会を求めているむね取りつがれ、彼はその人を案内させる。見ればかなり年配の立派な身装の男で、物腰には非常に品があり、しかもなにか威厳のある…