2013-03-03から1日間の記事一覧

(その五十)アルクホリック

冷蔵庫のドアを、開けたり閉めたりしていた。日本酒の冷えた瓶と、プラスティックの茶色いドアが交互に眼に映った。不思議なことに、それ以外のものは眼に入らなかった。いや、そういうと嘘になる。まだしらふのうちは、酒を飲みだすと長期戦になることがわ…

(その百七)ララ

エキセントリックな人間というものは、一つ屋根の下に住んでいると癪のたねになることがある。例えば私の母は、奇妙なことに、ララのことをただの一度も私に語ろうとはしなかった。ララを一番愛したのは、彼女が遠くから嵐のようにやってくるのを見ていた人…

(その百六)高階充

東京からひとりの女の子が越してきたらしいという噂が広まったのは、房枝が盆の迎え火の準備をしていたときだった。母親の昭子が縫製工場に出ていたため、昼ご飯の準備をしていた房枝が、食器を並べるために盆提灯につかう和紙や竹ひごをどけていると、いと…