ロスキノフ教授の夕べ〓

ロスキノフ教授の夕食はいつも遅く22時を過ぎるのが常である。
今夜は鰤の塩焼きとひじきの煮付けであった。どちらもロスキノフ教授の好物である。ちあいを避けながら食べすすみ、煮付けの中に埋もれている椎茸のかけらを見つけては除ける。
そんなロスキノフ教授の最近一番の関心はエジプトを筆頭とした北アフリカ・中東情勢である。
それはまだロスキノフ教授が若く学生であった頃、単身船でアフリカに上陸した記憶があるからである。チュニジアからエジプトを目指したロスキノフ教授はバスと徒歩、ヒッチハイクを行いながらリビア入りを目指したものだった。諸事情により入国適わず、それではとモロッコに目的地を変え針路を西はアルジェリアへと向けた。
懐かしい想い出である。しかし今ロスキノフ教授の胸にあるものは郷愁ではない。今を生きることが心情のロスキノフ教授は、自分が訪れた土地、出会った人々の安否を愁い未来をおもっているのである。新聞をめくりながら夕食を終えた。
ゆったりと湯舟につかり読書をしたロスキノフ教授は、お風呂からあがると入念なストレッチを行い安眠を得る準備を開始した。これは高校時に読んだ本の登場人物が行っていた快眠のための生活習慣に影響されてのことである。
歯磨き終えたロスキノフ教授は蒲団に入るとおもむろに携帯電話の画像フォルダを開いた。
記録されている画像を新しいものから順に眺めていく。一通り見終えると新しいものから8枚だけ眺める。そこには思案気な表情もあれば、にんまりとした目許の場合もある。概ねニヤついているのはロスキノフ教授自身気付いていない。
数秒の後、目覚まし機能を確認すると左手で頭上部に携帯を置きパチリと目を閉じるのであった〓〓
今夜もロスキノフ教授は颯爽と眠りにつき、室内には窓外から漏れ聞こえる車の走行音と隣室に眠る母の寝言だけが残されていた。