(その六)若い芸術家

 立ちどまると一面の星空とカエルたちのコーラス。やっとさがしあてた家のあたたかい電灯の光の下で、谷川俊太郎武満徹ビリー・ザ・キッドのピストルのはなしをしていた。石原慎太郎は輪ゴムのパチンコでハエをうちおとしていた。影の方にまだ何人かいたが名前をおもいだせない。みんな若い芸術家だった。こっちはかれらの世界をのぞいている少年だった。あの人たちは人間のあたたかさをどこかで信じていた。そこによりかかって表現していられた。


    高橋悠治「メモランダム」(『カフカ/夜の時間 メモランダム』所収) みすず書房 二〇一一年一〇月二一日発行 一三四頁