2013-01-30から1日間の記事一覧

(その百二)ニコラス・テメルコフ

彼は列車でトロントに向かった。彼の村の人間が大勢いて、見知らぬ者の中に入らずにすんだ。でも、仕事がなかった。それで北へ向かう列車でサドベリーの近くのカパークリフに行き、そこのマケドニア・パン屋で働いた。食事と宿付きで月に七ドルもらった。六…

(その百一)ダニエル・ストヤノフ

北アメリカへの移住の道を明るくする出来事は、トーキー映画の出現だ。サイレント映画は、娯楽以外には何ももたらさない。顔にぶつけられるパイ、百貨店から熊に引きずりだされるしゃれ男――すべての出来事が言語と議論ではなく、運命とタイミングによって決…

(その百)不適合者

この男は敏腕ではなかった。かれの周辺では何もかもがうまくゆかず、かれは自信をもてなかった。アパートからは幾度も追い立てを喰い、借金で首が廻らなかった。住居が二重に人手に渡ったくらいでは、まだそこにへばりついていた。しかし、しょっちゅうの引…