(その百十)憂鬱症者

 憂鬱症者。ーー憂鬱症者とは、自分の悩み、自分の損失、自分の欠陥をとことんまで考え詰めるに足るだけの精神力を持ち、またそういう精神力を働かせることへの喜びを持つような人間である。しかし彼が自分の身を養っている領域は狭小にすぎるので、ついには彼は、一本一本の藁切れまで探さねばならなくなる。こうして彼は最後には嫉妬深い男に、また吝嗇家になる、ーーそして、こうなると今度は鼻もちならぬいやな男になる。


  フリードリッヒ・ニーチェ『人間的、あまりに人間的2(ニーチェ全集6)』中島義生訳 筑摩書房 一九九四年二月七日発行 四五〇頁