(その三十四)稽古

 円鏡(現円蔵)と一緒に、いつだったか文楽師匠のところに『寝床』を習いにいったことがある。文楽は、根が不器用な人だからなのか、何と高座と同じに力を込めて私共の前で一席演ってくれた。円鏡と二人で恐縮もいいところで、帰り道、
「おい、竹ちゃん(円鏡のこと)、ギャラを出さなきゃ悪いんじゃないかナ?」
 と本気で話し合った。何しろ高座そっくりそのままを演ってくれたのだから、驚いたのなんの!

立川談志「落語家グラフィティ」(『立川談志遺言大全集11 落語論二 立川流落語論』講談社 二〇〇二年七月一八日発行)所収 一一五頁