(その五十五) P

 Pは、ある死体から銀の貞操帯を鋸で切って外した。彼はルーマニアのどこかで、その死体を掘り出した人夫たちを押しのけ、自分が記念に欲しいと思うある貴重な小さなものがそこに見えると言って人夫たちをなだめ、帯を鋸で切ってあけ、骸骨から取り外したのだ。もし村の教会で一冊の貴重な聖書とか、欲しいと思う一個の彫像や一枚の絵を見つけると、彼は書物からでも壁からでも祭壇からでも、欲するものを引き裂いて、代償として二へラー銅貨を一個おき、そして安心するのである。――肥った女たちを好む。彼が手に入れた女たちは、みな写真をとられる。彼が訪れる人ごとに見せるその写真の束。彼はソファーの一端に坐り、訪問客は彼からずっと離れて別な端に坐る。Pはほとんど覗かないのだが、つねに今どの写真の番になっているかを知っていて、それについての説明を与える。すなわち、これは年とった未亡人です、この二人の女中はハンガリー人です、等々。
          フランツ・カフカカフカ全集7 日記(一九一四年六月一二日の記述)』谷口茂訳 新潮社 一九八一年一〇月二〇日発行 289頁